ポルシェ 911 エンジンの構造とは?水平対向6気筒と空冷・水冷・T-Hybridの進化

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ポルシェ911は、同じエンジンを60年以上使い続けている車ではありません。
1963年に原型のポルシェ901が公開されて以来、911は水平対向6気筒とリアエンジンという基本構成を維持しながら、排気量、冷却方式、燃料供給、過給、排出ガス処理、電子制御を更新してきました。
初期の911は空冷自然吸気エンジンでした。
1970年代にはターボが加わり、1997年に発表された996では水冷へ移行します。
現行モデルでは、自然吸気、従来型ツインターボ、電動ターボを備えたT-Hybridが、モデルの目的に応じて使い分けられています。
ポルシェ911エンジンの本質は、古い機構をそのまま保存することではなく、水平対向6気筒とリアエンジンを各時代の技術で成立させ続けてきた点にあります。
- ポルシェ911の水平対向6気筒が動く仕組み
- エンジンを車体後部へ搭載する理由
- 空冷エンジンと水冷エンジンの違い
- 歴代911エンジンの重要な転換点
- Carrera、GT3、Carrera GTS、Turbo Sの違い
- 電動ターボを使うT-Hybridの仕組み
ポルシェ 911 エンジンの基本構造
💡ポルシェ911を理解する最初の鍵は、最高出力よりもシリンダーの配置にあります。
ポルシェ 911 エンジンは水平対向6気筒
ポルシェ911の基本となるエンジン形式は、水平対向6気筒です。
6本のシリンダーを一列やV字形に並べるのではなく、クランクシャフトを中心として左右へ3本ずつ配置します。
各シリンダーでは、吸気、圧縮、燃焼、排気という4ストロークの工程が繰り返されます。
燃焼圧力でピストンを動かし、コンロッドを介してクランクシャフトを回す原理は、一般的なガソリンエンジンと同じです。
違いは、ピストンが車体の左右方向へ往復する点にあります。
ポルシェ911エンジンは、3本ずつのシリンダーを左右へ寝かせた、低くて幅の広い6気筒エンジンです。
ポルシェ 911 エンジンのボクサーとフラット6
911の解説では、水平対向6気筒のほかに「ボクサー6」や「フラット6」という呼び方が使われます。
フラット6は、エンジン全体が平たく見える外形を表す名称です。
ボクサーという呼び名は、左右で向かい合うピストンの運動が、二人のボクサーが互いにパンチを繰り出す姿に似ていることに由来します。
厳密には、シリンダーバンクの角度が180度であっても、向かい合うピストンが同じクランクピンを共有する形式は一般的なボクサーエンジンとは区別されます。
911では、向かい合うピストンが互いに反対方向へ動く水平対向構造が採用されています。
「水平対向6気筒」「ボクサー6」「フラット6」は、911のエンジンを構造、運動、外形という異なる視点から表した名称です。
ポルシェ 911 エンジンと直列型・V型の違い
水平対向型には、直列型やV型とは異なる長所と制約があります。
| 形式 | シリンダー配置 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 直列型 | 一列に配置 | 構造を単純化しやすいが、多気筒化すると全長が長くなる |
| V型 | 左右を一定の角度で配置 | 多気筒でも全長を抑えやすい |
| 水平対向型 | 左右へ水平に配置 | 全高を抑えやすい一方、横幅が大きくなる |
水平対向型は、シリンダーを左右へ展開することでエンジンの高さを抑えられます。
一方、左右のシリンダーヘッド、吸排気装置、点火装置を収めるため、広い横幅が必要です。
911は水平対向エンジンの低さを生かす代わりに、横幅と部品配置の難しさを受け入れています。
ポルシェ 911 エンジンが後方にある理由
✨911の個性は、エンジン形式だけでなく、その搭載場所によって完成します。
ポルシェ 911 エンジンのリアエンジン配置
911では、エンジンが乗員より後方にあるだけでなく、後輪軸より後ろ側へ張り出す位置に搭載されます。
この構成はリアエンジンと呼ばれ、エンジンを前後の車軸間に置くミッドシップとは区別されます。
911の前身であるポルシェ356もリアエンジンでした。
ポルシェは911を開発する際、後部にエンジンを置く基本構造を継承しながら、6気筒化と高性能化を進めました。
水平対向6気筒とリアエンジンは別々の特徴ではなく、低いエンジンを車体後部へ収める一体的なパッケージです。
ポルシェ 911 エンジンが生む後輪トラクション
エンジンという重量物を後輪付近へ置くと、駆動輪である後輪へ静的な荷重を与えられます。
さらに車が加速すると、車体の荷重は後方へ移動します。
その結果、後輪が路面へ押し付けられ、エンジンの力を駆動力として伝えやすくなります。
- 発進時に後輪の接地荷重を確保しやすい
- コーナー出口で駆動力を伝えやすい
- 登坂時にも後輪荷重を利用しやすい
四輪駆動仕様では前輪にも駆動力が伝わりますが、エンジン重量が後輪付近にあるという基本的な重量配置は変わりません。
リアエンジン配置の大きな利点は、駆動輪の近くに重量を置き、加速時のトラクションへ利用できることです。
ポルシェ 911 エンジンの後方慣性
リアエンジンには、後輪トラクションと引き換えに構造上の課題があります。
重量物が後輪軸より後ろにあるため、車体が旋回すると、後部の質量が外側へ動こうとする慣性を持ちます。
ただし、初期の空冷911と現行992を同じ操縦特性として説明するのは適切ではありません。
現代の911は、タイヤ、サスペンション、ホイールベース、車体剛性、後輪操舵、スタビリティ制御などによって車両姿勢を管理しています。
現代の911はリアエンジンの性質を消したのではなく、その利点を残しながら後方慣性を制御できる範囲を拡大しています。
ポルシェ 911 エンジンの空冷時代
📝911の原点を知るには、初代から993まで続いた空冷技術を理解する必要があります。
初代ポルシェ 911 エンジンの2.0リッター空冷6気筒
ポルシェは1963年9月12日、フランクフルト国際モーターショーで911の原型となる901を公開しました。
生産は1964年に始まり、その後、車名が901から911へ変更されました。
初期の代表仕様には、2.0リッター空冷水平対向6気筒エンジンが搭載され、130PSを発生しました。
初代世代には130PSだけでなく、110PS、140PS、160PSなどの仕様も存在します。
排気量は2.2リッター、2.4リッターへ拡大されました。
1972年に発表された911 Carrera RS 2.7は、2.7リッターエンジンから210PSを発生しました。
モデルイヤーは1973年とされ、軽量なSport仕様の車両重量は960kgでした。
初代911のエンジンは2.0リッターから始まり、空冷方式を保ったまま排気量と出力を段階的に高めました。
ポルシェ 911 エンジンの排気量拡大とTurbo
1973年以降のGシリーズでは、2.7リッター水平対向6気筒が基本となりました。
その後、排気量は3.0リッター、3.2リッターへ拡大されます。
量産仕様の初代911 Turboは、1974年10月3日のパリ・モーターショーで発表されました。
顧客向け車両の納車は1975年春に始まりました。
3.0リッター空冷水平対向6気筒へターボチャージャーを組み合わせ、260PSを発生しました。
1977年には排気量が3.3リッターへ拡大され、インタークーラーの追加によって300PSへ達します。
インタークーラーは、ターボチャージャーで圧縮されて温度が上がった吸気を冷却します。
吸気温度を下げると空気密度が高まり、異常燃焼を抑えながら多くの空気をシリンダーへ送れます。
911 Turboの登場は、空冷水平対向6気筒が自然吸気だけでなく、高出力過給エンジンへ発展できることを示しました。
964と993のポルシェ 911 エンジン
964世代では、新しい3.6リッター水平対向6気筒が開発され、自然吸気仕様は250PSを発生しました。
ツインスパーク点火、ノック制御、三元触媒が採用され、空冷エンジンでありながら燃焼と排出ガスの電子制御が進みました。
後継の993では、自然吸気仕様が当初272PS、1996年モデルイヤーから285PSへ向上しました。
同じ時期には、回転域に応じて吸気管長を変えるVarioramも量産モデルへ導入されています。
993 Turboでは、911 Turboとして初めて2基のターボチャージャーが採用されました。
993は量産911として最後の空冷世代であり、空冷方式と電子制御を高度に統合した到達点です。
ポルシェ 911 エンジンが水冷化された理由
💡996の水冷化は、911史で最も大きな技術転換の一つです。
空冷ポルシェ 911 エンジンの冷却方法
内燃機関は燃料を燃焼させるため、大量の熱を発生します。
空冷911では、エンジンへ空気を送るファン、シリンダーやシリンダーヘッドの放熱フィン、エンジンオイルを組み合わせて熱を管理します。
名称は空冷ですが、冷却を空気だけに依存しているわけではありません。
オイルは内部部品を潤滑すると同時に、エンジン各部から熱を運ぶ役割を担います。
- ファンで冷却風を強制的に送る
- 放熱フィンで空気へ熱を逃がす
- エンジンオイルで内部の熱を移動させる
空冷911は走行風だけで冷やす構造ではなく、ファン、放熱フィン、オイルを統合した冷却システムです。
996で生まれた水冷ポルシェ 911 エンジン
1997年に発表された996では、3.4リッター水冷水平対向6気筒エンジンが採用されました。
初期仕様は1気筒当たり4個のバルブを備え、300PSを発生しました。
4バルブ化すると、吸気バルブと排気バルブの総面積を広げやすくなります。
高回転域でも多くの空気を取り込み、燃焼後のガスを効率よく排出できるため、高出力化に有利です。
一方、バルブ数が増えたシリンダーヘッドは構造が複雑になり、燃焼室や排気バルブ周辺の温度管理が重要になります。
ポルシェは、厳しくなる排出ガス規制に対応する4バルブヘッドを全運転条件で確実に冷却するため、水冷化が必要だったと説明しています。
水冷ポルシェ 911 エンジンで可能になった制御
水冷方式では、シリンダーやシリンダーヘッドの周囲に冷却水を循環させます。
冷却水は熱をラジエーターへ運び、外気へ放出します。
流路、流量、サーモスタット、電動ファンなどによって、エンジン各部の温度を比較的狭い範囲へ保ちやすくなります。
- 燃焼室周辺の温度を精密に管理しやすい
- 4バルブ式シリンダーヘッドを安定して冷却しやすい
- 高出力ターボの熱負荷へ対応しやすい
- 排出ガス浄化装置と燃焼制御を協調させやすい
水冷化によって、ラジエーター、冷却水配管、ウォーターポンプなどの部品は増えました。
空冷から水冷への移行は単純な優劣ではなく、システムの簡潔さより温度制御の精度と拡張性を選んだ変化です。
| 比較項目 | 空冷911エンジン | 水冷911エンジン |
|---|---|---|
| 主な世代 | 初代から993 | 996以降 |
| 冷却の中心 | 空気、ファン、オイル | 冷却水、ラジエーター、オイル |
| 温度管理 | 部位ごとの精密制御に制約がある | 冷却水流路によって管理しやすい |
| 構成部品 | 冷却水系統を必要としない | ポンプ、配管、ラジエーターが必要 |
| 技術的適性 | 初期から993までの性能要求へ対応 | 4バルブ、高出力、厳しい排出ガス規制へ対応 |
歴代ポルシェ 911 エンジンの進化
✨8世代の流れを整理すると、911が何を残し、何を変えたのかが明確になります。
初代から993までのポルシェ 911 エンジン
初代から993までは空冷時代ですが、内部技術は一様ではありません。
排気量は2.0リッターから3.8リッター級まで拡大され、燃料供給はキャブレター、機械式燃料噴射、電子制御式燃料噴射へ発展しました。
自然吸気だけでなく、単一ターボ、インタークーラー、ツインターボも採用されています。
964と993では点火、ノック制御、排出ガス処理の電子化も進みました。
空冷時代を単純な機械式エンジンの時代と一括りにするのは不正確であり、後半には高度な電子制御と過給技術が導入されていました。
996から991までのポルシェ 911 エンジン
996は水冷化と4バルブ化を実現し、997では自然吸気エンジンの排気量と出力を高めました。
997 Turboでは、量産ガソリン車として初めて可変タービンジオメトリー式ターボを採用しました。
タービン側の可変ベーンによって排気ガスの流れを調整し、低回転域の応答性と高回転域の流量を両立させる技術です。
991は当初、Carrera系に自然吸気エンジンを搭載していました。
2015年に発表された後期型では、Carrera系の主力エンジンをターボ化し、小排気量化と低回転トルクの向上を進めました。
水冷化後の911エンジンは、吸排気効率、直噴、可変機構、ターボ制御を組み合わせる総合システムへ発展しました。
992がポルシェ 911 エンジンの電動化を見越した理由
992世代では、Carrera系の3.0リッターツインターボを改良するとともに、部分的な電動化へ対応できる構造が準備されました。
8速PDKは、ベルハウジング内へ電気モーターを組み込める空間を考慮して設計されています。
この設計は、後に登場したT-HybridのPDK内蔵モーターへつながりました。
電動化は完成した911へ後からモーターを加えたものではなく、世代開発の段階からパッケージへ組み込まれていたことが分かります。
992は水平対向6気筒を残しながら、トランスミッションと高電圧システムを統合できる余地を準備した世代です。
| 世代 | 主な時期 | エンジンの転換点 |
|---|---|---|
| 初代 | 1963~1973年 | 2.0リッター空冷水平対向6気筒から開始 |
| Gシリーズ | 1973~1989年 | 排気量拡大と911 Turboの量産化 |
| 964 | 1988~1994年 | 3.6リッター化、ツインスパーク、電子制御 |
| 993 | 1993~1998年 | 最後の量産空冷911 |
| 996 | 1997~2005年 | 水冷化と4バルブ化 |
| 997 | 2004~2012年 | 可変タービンジオメトリーなど過給技術の進展 |
| 991 | 2011~2019年 | Carrera系が自然吸気からターボへ移行 |
| 992 | 2018年以降 | 自然吸気、ターボ、T-Hybridが併存 |
現行ポルシェ 911 エンジンの種類
😲現行911には、性格の異なる複数の水平対向6気筒が存在します。
911 Carreraの3.0リッターツインターボ
現行911 Carreraは、3.0リッター水平対向6気筒ツインターボを搭載します。
改良型の最高出力は290kW、394PSで、最大トルクは450Nmです。
1,500rpmで300Nmを発生し、2,000rpmを超えると最大トルクへ到達します。
改良型Carreraでは、先代911 Turboモデルに採用されていたインタークーラーをエンジン上部中央へ配置しています。
ターボチャージャーは先代Carrera GTSで使われていた仕様を採用しました。
Carreraの3.0リッターツインターボは、過給、吸気冷却、電子制御によって低回転トルクと出力を両立します。
911 GT3の4.0リッター自然吸気エンジン
現行911 GT3は、4.0リッター自然吸気水平対向6気筒を搭載します。
最高出力は375kW、510PS、最大トルクは450Nmで、最高回転数は9,000rpmです。
各シリンダーには独立したスロットルバルブがあり、アクセル操作に対して吸入空気量を素早く変化させます。
高回転時の潤滑を維持するため、独立したオイルタンクと可変式オイルポンプを持つドライサンプ潤滑を採用しています。
チタン製コンロッド、鍛造ピストン、ソリッド式カムフィンガーフォロワーも高回転へ対応する要素です。
GT3の自然吸気エンジンは、過給ではなく、吸排気効率、軽量部品、潤滑技術によって9,000rpmの高回転性能を成立させています。
911 Turbo Sのツイン電動ターボT-Hybrid
2025年9月に世界初公開された911 Turbo Sは、3.6リッター水平対向6気筒を中心とするT-Hybridを搭載します。
Carrera GTSが1基の電動ターボを使うのに対し、Turbo Sは2基の電動ターボを採用しました。
システム最高出力は523kW、711PSで、最大トルクは800Nmです。
高電圧バッテリーは総容量1.9kWhで、PDK内部の電気モーターへ電力を供給します。
2基の電動ターボは過給応答を高めるだけでなく、排気ガスから電力を回収します。
現行Turbo Sは、水平対向6気筒、2基の電動ターボ、PDK内蔵モーターを統合した、ポルシェ史上最も高出力な量産911です。
| モデル | エンジン構成 | 最高出力 | 技術的特徴 |
|---|---|---|---|
| 911 Carrera | 3.0リッター水平対向6気筒ツインターボ | 394PS | 低回転トルクと日常域の応答性 |
| 911 GT3 | 4.0リッター水平対向6気筒自然吸気 | 510PS | 9,000rpmの高回転性能 |
| 911 Carrera GTS | 3.6リッター水平対向6気筒T-Hybrid | システム541PS | 1基の電動ターボと電動駆動支援 |
| 911 Turbo S | 3.6リッター水平対向6気筒T-Hybrid | システム711PS | 2基の電動ターボと四輪駆動 |
ポルシェ 911 エンジンのT-Hybrid
⚡T-Hybridは、長距離のEV走行を主目的とする一般的なプラグインハイブリッドとは設計思想が異なります。
3.6リッターのポルシェ 911 エンジン
911 Carrera GTSのT-Hybridには、新開発の3.6リッター水平対向6気筒が搭載されます。
ボアは97mm、ストロークは81mmです。
高電圧システムによってエアコン用コンプレッサーを電動化し、従来のベルト駆動装置を省いています。
エンジンをコンパクトにすることで、その上部へパルスインバーターやDC-DCコンバーターを配置する空間を確保しました。
内燃機関単体では357kW、485PS、570Nmを発生します。
T-Hybridの3.6リッターエンジンは、既存エンジンへモーターを追加しただけではなく、高電圧部品の搭載を前提として再構成されています。
ポルシェ 911 エンジンを支える電動ターボ
一般的なターボチャージャーは、排気ガスでタービンを回し、同軸のコンプレッサーで吸気を圧縮します。
低回転では排気流量が少ないため、十分な過給圧が生じるまでに時間差が発生します。
T-Hybridの電動ターボは、タービンとコンプレッサーの間に電気モーターを備えています。
排気ガスが十分に増える前からモーターでターボを加速し、過給圧を素早く立ち上げます。
モーターは発電機としても働き、排気エネルギーから最大11kWの電力を回収します。
電動ターボは過給の遅れを抑える装置であると同時に、排気エネルギーを電力へ変える発電装置です。
PDK内蔵モーターと400V高電圧システム
T-Hybridでは、8速PDKの内部に永久磁石同期モーターが組み込まれています。
モーターはアイドリング回転域から最大150Nmの駆動トルクを加え、最大40kWの出力を供給します。
減速時などには発電機として働き、最大40kWで高電圧バッテリーへ電力を戻します。
電気モーターは、エンジンの始動装置とオルタネーターの役割も担います。
高電圧バッテリーの作動電圧は400V、総容量は1.9kWh、重量は約27kgです。
T-Hybridは電力を過給応答、駆動支援、回生へ集中させる性能重視のハイブリッドシステムです。
| T-Hybridの構成 | 役割 | GTSの主な公式値 |
|---|---|---|
| 3.6リッター水平対向6気筒 | 主動力を発生 | 485PS、570Nm |
| 電動ターボ | 過給応答の向上と排気エネルギー回収 | 最大11kWを発電 |
| PDK内蔵モーター | 駆動支援、始動、発電、回生 | 最大40kW、最大150Nm |
| 高電圧バッテリー | 電力の保存と供給 | 400V、総容量1.9kWh、約27kg |
| システム全体 | 内燃機関と電動機の統合 | 541PS、610Nm |
ポルシェ 911 エンジンの利点と課題
💡911の構造には明確な利点がありますが、あらゆる面で有利な万能形式ではありません。
ポルシェ 911 エンジンの低い搭載位置
水平対向エンジンはシリンダーを左右へ寝かせるため、エンジン全高を抑えやすい形式です。
重量物であるエンジンを比較的低く置くことは、車両の重心高を抑えるうえで役立ちます。
向かい合うピストンが反対方向へ動くため、往復運動から生じる慣性力を構造的に均衡させやすい点も特徴です。
ただし、エンジン形式だけで車両全体の重心や振動が決まるわけではありません。
水平対向6気筒は低く搭載しやすく、滑らかな回転を設計しやすい一方、車両全体の性能は周辺機構との統合によって決まります。
ポルシェ 911 エンジンの横幅と熱管理
水平対向エンジンは高さを抑えられる反面、左右へ広がります。
車体後部にはシリンダーヘッド、排気管、触媒、ターボ、インタークーラーなどを配置しなければなりません。
水冷911では、車体前部付近のラジエーターと後部のエンジンを配管で接続します。
ターボモデルでは、高温になる排気側と、温度を下げたい吸気側を限られた空間で管理する必要があります。
現代の911エンジンは後部だけで完結する装置ではなく、車体全体を使って冷却と熱交換を行うシステムです。
ポルシェ 911 エンジンの電動化による複雑化
T-Hybridでは、内燃機関に加えて電動ターボ、PDK内蔵モーター、高電圧バッテリー、インバーター、DC-DCコンバーターが加わります。
過給応答、駆動力、エネルギー回収を改善できる一方、制御対象と構成部品は増えます。
バッテリーや電動ターボについて、長期故障率や部品寿命を判断できる大規模な公開実績データは、現時点では確認できません。
そのため、具体的な交換時期や長期修理費を断定することはできません。
電動化は911エンジンを単純化する技術ではなく、より多くのエネルギー変換装置を統合して性能を高める技術です。
ポルシェ 911 エンジンの将来
✨911の将来は、内燃機関か電気かという単純な二者択一では説明できません。
自然吸気・ターボ・T-Hybridの併存
現行911では、複数のエンジン方式が同時に採用されています。
- Carreraは3.0リッターツインターボ
- GT3は4.0リッター自然吸気
- Carrera GTSは1基の電動ターボを持つT-Hybrid
- Turbo Sは2基の電動ターボを持つT-Hybrid
日常域のトルク、高回転応答、最高出力など、モデルごとの目的に合わせて方式を使い分けています。
現行911は自然吸気、従来型ターボ、T-Hybridを併存させ、同じ水平対向6気筒から異なる性能を引き出しています。
水平対向6気筒を残す電動化
T-Hybridは、内燃機関を停止して長距離を電気だけで走ることを中心としたシステムではありません。
電気モーターはターボを加速し、PDKから駆動力を加え、減速時や排気ガスから電力を回収します。
電力は水平対向6気筒の代替ではなく、その応答性と出力を拡張するために使われています。
将来すべての911が同じ方式になるという公式発表はありません。
確認できる範囲では、911の電動化は水平対向6気筒を廃止する方向ではなく、その性能を電気で補強する形で進んでいます。
変わらないポルシェ 911 エンジンの価値
初代911と現行911では、部品も制御方法も大きく異なります。
空冷は水冷へ変わり、キャブレターや機械式燃料噴射は電子制御式燃料噴射へ移行しました。
自然吸気だけだったラインアップには、ターボ、可変タービンジオメトリー、電動ターボが加わりました。
それでも、水平対向6気筒とリアエンジンは911の中心に残っています。
基本構造を維持するからこそ、横幅、冷却、後方慣性という課題を、各時代の新しい技術で解決し続ける必要があります。
ポルシェ911エンジンの普遍的価値は、変化を拒んだことではなく、同じ基本構造を60年以上にわたって再設計し続けたことにあります。
ポルシェ 911 エンジンを理解するための結論
📝ポルシェ911エンジンの核心は、水平対向6気筒とリアエンジンの組み合わせです。
水平対向構造はエンジンを低く配置しやすく、リアエンジン配置は駆動輪である後輪へ荷重を与えます。
一方で、横幅、熱管理、後方慣性という課題も生じます。
ポルシェはそれらの課題を避けるのではなく、サスペンション、タイヤ、冷却、過給、電子制御を進化させることで対応してきました。
初代の2.0リッター空冷エンジンは、排気量拡大とTurboの導入を経て、993で空冷時代の到達点に達しました。
996では水冷と4バルブへ転換し、現行992では3.0リッターツインターボ、4.0リッター自然吸気、3.6リッターT-Hybridが併存しています。
911は昔のエンジンを保存したスポーツカーではありません。
変えない骨格と変え続ける内部技術を同時に成立させてきたことが、ポルシェ911エンジンの最大の特徴です。
空冷か水冷か、自然吸気かターボかという個別の違いを超えて見ると、すべての世代を貫く設計思想が浮かび上がります。
引用・参考資料
- Porsche Newsroom「60 years of the Porsche 911」
- Porsche Newsroom「First generation - Engines」
- Porsche Newsroom「The beginning of the series」
- Porsche Newsroom「Role model: the 911 Carrera RS 2.7」
- Porsche Newsroom「Fifth generation Porsche 911」
- Porsche Newsroom「Drive technology: Porsche 911 Carrera」
- Porsche Newsroom「911 GT3 Powertrain and performance」
- Porsche Newsroom「Drive technology: Porsche 911 Carrera GTS」
- Porsche Newsroom「911 Turbo S Summary」